「皆さん、お待たせしました」
バーリマンさんとのお話が済んだみたいで、二人して戻ってくるとルルモアさんはお話の続きを始めたんだ。
「えっと、確か家を持っていないといけないと言う所まででしたね。では、最後に奴隷の待遇についての説明です」
そう言うとルルモアさんは、3人のお姉さんたちに質問したんだよ。
「借金は3人で分割するという事でよかったですか?」
「はい。金額が金額ですから、二人が借金奴隷に落ちたところで払える金額ではないですから」
「解りました。ではルディーン君がこの3人を借金奴隷として引き取る場合、その期間中に彼女たちが稼いだお金はすべてルディーン君のものになります」
ホントだったらね、こんなにいっぱい借金があったら鉱山とかのとっても大変なとこで働かないとダメなんだって。
それなのに借金奴隷の間は、いくら働いてもお金が全然もらえないんだよってルルモアさんは言うんだ。
「これは借金を働いて返すためなので、奴隷である期間中に逃げ出すと罪に問われます。そして捕まった場合はより厳しい、犯罪奴隷になってしまうので気を付けてください」
「解りました」
お姉さんたちはね、3人ともそれでいいよって頷いたんだ。
でもさ、そのお話を聞いてた僕は、ちょっと解んない事ができたんだよね。
「ねぇ、ルルモアさん。お姉さんたちはお金がもらえないんだよね?」
「ええ、そうよ」
「だったらさ、ご飯はどうするの?」
僕たちの村だったらみんなして狩りやいろんなお仕事をして、そうやって手に入れた物を交換する事でみんなご飯を食べてるんだ。
でもイーノックカウだと、お金が無かったらご飯が買えないでしょ?
だからみんな僕のものになっちゃったら、お姉さんたちはご飯が食べられなくなっちゃうんじゃないかなぁって僕、思うんだ。
「ええ、そうね。だからそれについての規則もあるのよ」
ルルモアさんはそう言うと、僕に向かってこう言ったんだ。
「ルディーン君は雇い主として、最低限でもいいから彼女たちの衣食住を賄わないといけない規則になっているのよ」
「ええぇっ!?」
でもね、そんなルルモアさんのお話を聞いて、3人のお姉さんたちのリーダーであるキルヴィさんが急にすっごくおっきな声を出したんだよね。
だから僕、びっくりしてキルヴィさんの方を見たんだよ。
そしたらキルヴィさんはびっくりした顔しながら、ルルモアさんに怒りだしたんだ。
「衣食住って、私たちは借金の返済のために働くのですよね? なのに、なぜ私たちのためにルディーン君がお金を出さないといけないのですか!」
「それは、そう規則で決められているからよ」
借金奴隷ってのはね、自分でやめる事はできないけど、その他は普通に働いてる人たちと変わんないからなんだって。
「例えば従業員が住み込みで働いている商会があるとするわね。そう言うところの場合、衣食住のうち、食と住は商会が提供してその分の帰依費を給料から引くと言うのが普通でしょ?」
「ええ、そうですね」
「これが借金奴隷の場合、普通鉱山とか寒い地方での治水作業などの街から離れたところで働く事も多いから、その二つだけでなく衣服も雇い主が支給しないと手に入れる事ができないのよ」
街に住んでる人の殆どはどっかのギルドに入ってる事が多いでしょ?
普通はそのギルドがちょっとの間立て替えてくれるもんだから、ちょびっとだけの借金で奴隷になる人はいないんだって。
だから借金奴隷になる人の殆どは、とっても大変なとこで働かないとダメな事が多いんだよってルルモアさんは言うんだ。
「それに入ってくるお金が全部雇い主のものになると、借金奴隷になっている人は衣食住のすべてをまかなってもらわなければ生きていけないもの。だからこういう制度があるのよ」
「でも借金までしているのに、その他にそんな負担をかけるなんて……」
「ええ、そうね。でもだからこそ、最低限でもいいと記載されているのよ」
ルルモアさんはね、そう言うと鉱山とかで働いてる借金奴隷の人たちがどんな生活をしてるのかを教えてくれたんだ。
「基本衣服は最低限の者しか与えられないから、みんなぼろぼろの服を着ているわ。それに寝る場所も板の間に雑魚寝。食事も硬いパンに干し肉と薄いスープと言うところが多いわ」
「そんな環境なのですか?」
「ええ。でも冬場はちゃんと薪で暖がとれるし、病気になれば薬はもらえるのよ。ただ、劣悪なのは間違いないわね」
この話を聞いて黙っちゃうお姉さんたち。
でもね、僕はそんなお姉さんたちに大丈夫だよって言ったんだ。
「ご飯食べないとお腹すくもん! いっぱい食べていいよ」
「フフフっ、ルディーン君ならそう言うでしょうね。まぁ今のはあくまで鉱山での話だから、あなたたちは心配する必要はないわよ」
ルルモアさんはね、さっき話したのは本当に最低限の職場の話で、街の中で働いている借金奴隷はそこまでひどい環境ではないんだよって教えてくれたんだ。
「これはルディーン君次第だけど、今回の場合は先hじょどバーリマン様が話していた家に住んでもらう事になるだろうから、住に関しては多分今あなたたちが寝泊まりしている宿よりもよくなるでしょうね。それに衣と食も街でなら安く手に入れる事ができるから、今とあまり変わらない環境になるんじゃないかしら」
「でも、それだとルディーン君の負担が……」
「ええ、もしあなたたちが働かなければそうでしょうね。でも今まで通り冒険者として働いてくれれば、少なくとも衣と食の負担分以上は稼いでくれるでしょ?」
「そっそうですね。言われてみれば確かに」
お姉さんたちはね、宿屋さんに泊まってた今まででもちょっとずつお金がたまってたんだって。
それに服はそんなにしょっちゅう買い換えないから、僕が払わなきゃダメなのはご飯代だけでしょ?
だったらきっと、ちょっとずつだけでも僕に借金が返せるねって、お姉さんたちはほっとしたお顔になったんだ。
「それでは手続きの話に移りましょう。まずはフランセン様」
「うむ」
「もう一度確認させてください。保証人にはフランセン様がなって頂くという事でよろしかったですね?」
ルルモアさんがそう聞くと、ロルフさんはいいよって笑顔で頷いてくれたんだ。
「ありがとうございます。ではこれで居住権については問題なく……」
「あっ、待ってルルモアさん。僕、お金持ってないよ? ここにある魔石だけで足りるかなぁ?」
だからルルモアさんはそのまんまお話を続けようとしたんだけど、さっき居住権ってのにはお金がいっぱい居るって言ってたよね?
僕、お金なんて持ってないから、ポシェットから出した魔石が入ってる袋を出してこれで大丈夫? って聞いてみたんだ。
でもそれを見たルルモアさんは、お金の事なら大丈夫よって。
「ルディーン君は前に、ギルドマスターの依頼でブレードスワローと狩って来てくれたことがあったわよね?」
「うん」
「あの時の報酬だけでも、居住権の支払いくらいはできるから何の問題もないわ」
僕は知らなかったんだけど、あれってこの国の偉い人からの依頼だったんだって。
それにね、ほんとはとっても高いランクの冒険者向けの依頼だったから、その報酬もすっごく多かったんだよってルルモアさんは教えてくれたんだ。
「ほう。ブレードスワローと言うと、我がま……こほん。領主がはく製を皇帝陛下に献上したと聞いたが」
「ええ。それから同じものがもう3匹ほど手に入らないかと、うちのギルドマスターが無理な依頼を受けてきまして」
「確かに、少々無茶な依頼じゃのう」
ロルフさんはそう言うと、あごのお髭をなでながら依頼料はいくらだったの? って聞いたんだよ。
そしたらルルモアさんは、800万セントだよって答えたもんだから、僕、びっくりしちゃったんだ。
「そんなにいっぱい、お金もらえたの?」
「う〜ん。本来ならAランクとかの冒険者でもなければ達成できない依頼ですもの。そう考えると安すぎる依頼料なのよ。それなのにうちのギルマスが安請け合いして」
そう言うとルルモアさんは、横に居たギルドマスターのお爺さんに怖い顔したんだ。
「そうは言うが、帝国府からの直々の依頼だぞ? 流石に断れないだろう」
「ですが、それならば常識的な依頼料を請求すべきでしょう? もしあの時ルディーン君がイーノックカウに来なければ、わざわざ他の都市から高ランクの狩人を呼び寄せなければならなかったんですよ」
僕じゃなくても、すっごく強い狩人さんならブレードスワローをあんまり傷つけないでやっつけられるんだって。
でもそう言う人を呼んで来ようと思ったらそれだけでもいっぱいお金がかかっちゃうから、もしそうなってたら冒険者ギルドはいっぱい損をしてたんだよってルルモアさんは怒ってるんだ。
「だからすまぬと言っておろう? それにあの時はこの子が余分にブレードスワローを獲ってきてくれたから、ギルドとしては大いに儲かったではないか」
「それはあくまで結果論でしょう!」
あの時って確か3羽獲ってきてって言ってのに、お土産にするつもりだった2羽まで頂戴って言われたんだよね。
僕、お母さんに見せるからヤダって言ったんだけど、お父さんがいいよって言っちゃったもんだから結局取られちゃったんだ。
「まぁ、いいわ。と言う訳で、ルディーン君。帝国府からの依頼報酬とは別に、今ギルドマスターが言ったブレードスワローの代金もみんなルディーン君の口座に入っているから、金額的には充分足りるわ」
「そっか。お金はあるんだね?」
「ええ、そうよ。それにルディーン君は、その依頼の前にも6匹ギルドに納品しているでしょ? だからそれも合わせるとかなりの金額になるわ。ただルディーン君のお父さんから、使える金額の上限を指定されているのよね。と言う訳で、ハンバー司教様」
「ん、なんじゃ?」
「村に帰ってからでも問題ありませんから、カールフェルト夫妻にルディーン君の口座から居住権の支払い許可についての話をして頂けないでしょうか?」
「ああ、それは構わぬが」
「ありがとうございます。ではお帰りの際に声を掛けて頂けたら、冒険者ギルドの者に書類を持たせて村までご同行させていただきますね」
と、ここまでルルモアさんが言ったところで、バーリマンさんがちょっと待ってって声を掛けたんだ。
「何か問題がありましたでしょうか、バーリマン様?」
「いえ、そうではありません。実を言うと、今回ハンバー様をお呼びしたのは錬金術ギルドなのです。ですから帰りの馬車は家から出しますし、その際書類を持たせますから冒険者ギルドからわざわざ人を出して頂かなくても大丈夫ですわよ」
「まぁ」
それなら安心だねって笑うルルモアさん。
って事で居住権のお金は、僕たちがお家に帰ってから払う事になったんだ。
ここまで読んで、あれ? って思った方もいると思います。
それはそうですよね。だってルルモアさん、ハンスお父さんたちが絶対に許可を出すと思っているのですから。
でもこれに関してはちゃんと根拠があります。それは過去に孤児院の寄付について話したことがあるからです。
あの時ハンスお父さんは、ルディーン君だったら孤児たちのためにお金を出すのを反対するはずがないと言ってましたよね?
それと同じで、ルディーン君がお姉さんたちを助けるためにお金を使うって聞いたら、ハンスお父さんたちが反対するはずがないのです。
それを知っているからこそ、ルルモアさんはお爺さん司祭様に書類を託して許可を取ってくださいねってお願いをしたと言う訳です。